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虐待を疑われた時に知っておきたいSBS(揺さぶられっ子症候群)と三兆候

日本のみならず、世界で起こっている冤罪事件の話です。

もしあなたに、小さなお子さまがいるのなら、「あなたの家族にも起こりうるトラブル」になります。

質問

私たちは30代の夫婦です。

うちには2人の子どもがいます。上の子は男の子で4歳、下の子は女の子で生後5か月です。
経済的にすごく余裕があるわけではありませんが、とても幸せな家庭でした。

先日、下の子をソファに寝かしていたら、何が原因かわからないのですが床に落ちてしまい頭を打ってしまいました。

そのとき私は買い物をしていて、妻は家にいました。
様子がおかしかったので心配になって救急車を呼んだのですが、これが恐怖のはじまりでした。

なんと、院に「子どもを虐待した可能性がある」とされて、警察・児童相談所に通報されてしまったのです。

当然ですが私も妻もこれまでに一度も虐待などしたことはありません。

もちろん親にも虐待をされたことはありません。

警察からは「事情聴取をさせてほしい」と言われており、児童相談所からは「退院したら一時保護を考えている」と言われている状況です。

しかも、警察と児童相談所からは上の子どもまで虐待をしているのではないかという疑いまでかけられているようです。

当時子どもと一緒にいたのは妻ですが、私も疑われている気がします。

これからどうしたらいいのか途方にくれています。

なぜ虐待と言われているのかわからないので、「揺さぶり」「揺さぶられっ子症候群」について詳しく知りたいです。

また、これらの言葉を検索していくと「SBS仮説」「三兆候」という言葉が出てきたのですが、これらも気になっています。

目次

揺さぶられっ子症候群 (SBS)とは?

揺さぶられっ子症候群 (SBS)とは

「SBS」という言葉では聞いたことがなくても「揺さぶられっ子症候群」という言葉を聞いたことがある人はいらっしゃるのではないでしょうか。

SBSというのは、「Shaken Baby Syndrome(シェイクン・ベビー・シンドローム)」(=揺さぶられっ子症候群)の略称です。

(※今回の記事では、揺さぶられっ子症候群のことを「SBS」と呼びます

SBSというのは、赤ちゃんが強く揺さぶられた結果、脳に障害が発生してしまうことを指します。

実は、日本だけでなく世界的に『とある理論』によって「本当は虐待していないのに虐待をした疑いをかけられてしまっている親」がたくさんいるのです。

一切虐待をしていないのに、です。

今日は親が虐待していると疑われてしまう『とある理論』について解説したいと思います。

なお、今回の記事はあくまで「SBSについてわかりやすく説明する」ということがメインテーマなので、細かな説明の違いや立場による考えの違いについては割愛させていただきます。

SBS仮説というものがどうして生まれたのか

前段の『とある理論』とは、SBS仮説を指します。

このSBS仮説、実はとても恐ろしい理論なのです。このSBS仮説を、ざっくり説明すると、

【SBS仮説とは】

子どもに

 ①硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)
 ②眼底出血(がんていしゅっけつ)
 ③脳浮腫(のうふしゅ)

という三徴候があって

この三兆候の原因が他に考えられない場合には、その子どもに最後に一番近くにいた親が揺さぶって障害を与えた(虐待をしていた)と推定する

というものです。 これだけ聞くと「なんだかちょっと難しい理論だけど、正しいのかな」と感じるかもしれませんが、これが何を意味するかというと、

子どもが転ぶなどで①②③の障害が発生したような場合であっても、親が虐待をしたという疑いをかけられてしまう理論 ということなのです。

小さなお子様がいるご家庭の両親にとって、子どもが転んだりベッドやソファから落ちたりしてしまうことは日常的にはない話ではありません。

それが原因で虐待だと疑われてしまうなんて「冗談じゃない!」と思われるのではないでしょうか。

でも、このような虐待の冤罪事件は現在もなお日本だけでなく世界で起こっているのです

「1歳くらいまでの子どもを持つ親」は、いつ虐待の疑いをかけられてもおかしくないリスクにさらされている、ということです。 

詳しく見ていきましょう。

三兆候とは?

三兆候とは

まずは、①硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)、②眼底出血(がんていしゅっけつ)、③脳浮腫(のうふしゅ)の三徴候がどんなものかを知る必要がありますので見ていきましょう。

① 硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)

脳は「硬膜」(こうまく)という膜に守られています。

そして、脳の表面にある血管が破れて硬膜の下に血がたまって血のかたまり(血腫=けっしゅ)ができてしまいます。

これが「硬膜下血腫」です。

「硬膜の下に血のかたまりができる」という、そのままの意味ですね。

硬膜下血種の一例

例えば、脳の血管に「架橋静脈」(かきょうじょうみゃく)という橋のような血管があるのですが、これが破れて硬膜下血腫になることがあります。

簡単にしくみを説明しますと、架橋静脈は、成長につれて長さに余裕ができてきて切れにくくなるのですが(図1参照)、生後間もないころはこの橋を支えている部分がピンと張った状態のため非常に切れやすいと言われています(図2参照)。

ですので、転倒して頭を打ったような場合に架橋静脈が切れてしまい、血が脳の表面に流れでてきて、硬膜の下に血がたまって固まってしまいます。

虐待を疑う医師は、転倒したのではなく揺さぶった結果、架橋静脈が切れたのだと主張します

いずれにしても、これが硬膜下血腫のできる仕組みの一例だと言われています(なお、そもそも揺さぶりで架橋静脈が切れるということがあるのかという議論もあります)。

SBS仮説に賛成する人たちからは「硬膜下血腫の原因は、頭部に強い力が外側からかかったこと」にあるとされているため、「親が子どもを強く揺さぶった証拠」の1つに「なる」と考えられているのです

そして、繰り返しになりますが、SBS仮説に反対する人たちからは「転倒やソファ・ベッドからの転落でも硬膜下血腫にはなる」ため、「親が子どもを強く揺さぶった証拠」の1つに「ならない」考えられているのです。

(参考)公益社団法人日本小児科学会「乳幼児揺さぶられ症候群について」
柳原三佳「すべて虐待?日本の法律は親と子を引き離すようにできているのか

② 眼底出血(がんていしゅっけつ)

簡単に説明すると「目の奥の網膜からの出血」です。

網膜の表面にある血管が破れ、網膜が出血します。

この眼底出血も強く揺さぶられた結果起きるものであるとされており、「親が子どもを強く揺さぶった証拠」の1つになると 考えられています 。

③ 脳浮腫(のうふしゅ)

脳の組織に水分が過剰に溜まると、脳組織がむくみます。

この状態を脳浮腫と呼びます。

「脳がむくむと大きくなる」というのはわかると思います。

しかし、頭蓋骨(ずがいこつ)は骨ですから大きさは変わりませんので、大きくなった脳が頭がい骨の中できゅうくつになり圧迫されてしまいます。

その結果、頭痛や吐き気がしたり、意識を失ったりしてしまいます。 また命に関わる非常によくない状態です。

これも「親が子どもを強く揺さぶった証拠」の1つになると考えられています。

脳浮腫は、脳に酸素がいかなくなった結果、恒常性維持機能(ホメオタシス=環境が変化しても体内の状態を一定に保とうとするしくみ)が損なわれ、浸透圧のバランスが崩れて脳の細胞内に水分が入ってしまうことで起こるものです。

SBS仮説に賛成する人たちからは「脳浮腫の原因は、揺さぶりによって、びまん性軸索損傷が生じたこと」にあるとされているため、「親が子どもを強く揺さぶった証拠」の1つに「なる」と考えられているのです。

SBS仮説に反対する人たちからは「揺さぶりによって、びまん性軸索損傷が生じるという根拠はない」ため、「親が子どもを強く揺さぶった証拠」の1つに「ならない」と考えられているのです。

(参考)SBS検証プロジェクト「脳浮腫の原因はびまん性軸索損傷か?

どうしてこれらがあると虐待ってされてしまうの?

現在、SBS仮説を支持する人は、「三兆候は低いところから落ちたり、転んだりしただけでは生じない」という考えを持っています。

医師の中にもそのような考えを持っている人はいます。

そのため、搬送先の病院の医師に、三兆候は低いところから落ちたり転んだりしただけでは起きないのだから虐待をしていたに違いないと思われてしまい警察や自動相談所に通報をされてしまいます。

よって「三兆候があるという事実だけで、虐待をした親だと疑われてしまう」ということが起きているのです。

実をいうと、SBS仮説を考え、発展させてきた科学者たち自身でさえ、後になってこの理論の正確性は怪しいと考えています。
(科学者が出した論文はもともとデータが足りていないものでした)

しかし、SBS仮説がどんどん一人歩きしてしまい、

その結果、「虐待のおそれがあるならば、たとえ間違ってしまったとしても虐待を見逃して死なせてしまうよりはいいだろう」という美名のもと、 SBS仮説を正しいとい支持する人が今もそれなりにいますし、日本では通説かのように扱われています。

SBS仮説をもとに虐待があったかどうかを「誰」が決めるのか?

虐待の判断

このSBS仮説は三兆候があれば虐待であると推測できてしまう理論なので、虐待があったかどうかを判断するのは「三兆候があるかを見極める人」ということになります。

そうです。医師です。

「三兆候があるが、これは揺さぶりによるものである」

というように、医師の意見によって虐待があったかどうかが決まってしまうのです。

お医者さんは本当に万能なのか?

読んでいるみなさんに強く知ってほしいことがあります。

それは、「すべての医師が正しくレントゲン画像、MRI画像、CT画像を読めるわけではない」ということです。

例えば、「小児科」の医師が全員正確な読影ができるのかというと、実際はNOです。

本来、脳の損傷の問題なのですから「脳神経外科」の医師が見るものなのです。

しかし、救急搬送されると最初に子どもを見るのは「小児科」の医師です。

もしここで三兆候があっただけで虐待だと決めつけてしまう医師にあたってしまえば、もうそこで終わりのようなものなのです。

ですので、本来、この問題は、「専門である脳神経外科に診てもらう必要がある」のです。

つまり、「今回発生した三兆候が本当に虐待による三兆候かどうか」について、脳神経外科の医師であれば判別できる可能性があるということです。
(もちろん、全員が正確に判別できるという意味ではありません)

逆に、「脳神経外科」以外の医師の読影は本当に正しいのかどうかは常に意識しておかなければならないということです。

お医者さんだからみんながみんな万能だというわけではないのです。

SBS仮説は間違っている可能性がきわめて高い

SBS仮説

実は、このSBS仮説は、信ぴょう性がなくなってきています。

例えば、
・低いところから落ちたり、転倒して頭を打ったりした場合でも硬膜下血腫は起こる
・成人女性の力では子どもの脳に損傷を与えるくらいの揺さぶりをすることは不可能である
・揺さぶり行為によって架橋静脈や軸索は破れない。また、頚部損傷が生じるはず
・脳浮腫の原因は低酸素(酸素が少なくなったこと)にあるため、外傷によって起きたものではない
・硬膜下血腫には多くの他の原因があり得る
・眼底出血には外傷によらない他の原因もあり得る
・意識がはっきりしている時期がある(ので最後に一緒にいた人が犯人とは限らない)

などということが強く言われているのです。

つまり、「たとえ三兆候があったとしても虐待ではない」ということは徐々に明らかになっているのです。

世界的に見ても、例えば、2014年、スウェーデンでは最高裁判所が三兆候だけでは虐待と判断することはできないと明確に判示されています。

アメリカをはじめ多くの国でも無罪判決は数多く出ています。

繰り返しになりますが、

「非常に強い外力を子どもにかければ、三兆候が起こる」

 とはいえるかもしれませんが、

「子どもに三兆候があるからといって、非常に強い外力があったとは必ずしもいえない」

よく考えれば当然のことではあるのですが、これによって「死刑」とされた人もいるのです。

ただ、揺さぶりで本当に三兆候が起こるかどうかの実験をすることはできないこともあり、いまだにSBS仮説が正しいという人は後を絶ちません。

自分が疑われたらどうしたらいいのか 

虐待を疑われたら

SBS検証プロジェクトにコンタクトを取りましょう。

虐待をしていないにもかかわらず虐待を疑われてしまったのであれば、早急に弁護士に相談するべきです。

ただ、弁護士であれば誰でもSBSに詳しいわけではありません。

むしろ「ほとんどの弁護士がSBSには全く詳しくない」と言ってもいいくらいです。

ではどうすればいいのか?

現在、「SBS検証プロジェクト」という団体があり、弁護士や法学研究者によって構成されています。

このメンバーはSBSの問題を専門的に扱っており、最近は数多くの無罪判決を取っています。

全国からの相談を受け付けているので、助けが必要な方は「お問い合わせフォーム」から相談するといいでしょう。

お問い合わせフォーム

まとめ

いかがでしたか?

ちょっと読んだだけでもこのSBS仮説が恐ろしい理論だということを感じていただけたと思います。

虐待はあってはならないものですが、虐待でないものを虐待だと決めつけた結果生まれる悲劇もあってはなりません。

これを読んだ方にとって少しでも参考になれば幸いです。

この記事を書いた人
松本隆弁護士

弁護士  松本 隆

神奈川県 弁護士会所属
横浜二幸法律事務所
所在地 神奈川県横浜市中区山下町70土居ビル4階
TEL 045-651-5115

労働紛争・離婚問題を中心に、相続・交通事故などの家事事件から少年の事件を含む刑事事件まで幅広く事件を扱う

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