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就業規則の原則【新入社員でも理解ができる】4つのポイント

知っているようで知らない『就業規則』

何年も会社勤めをしていても、「就業規則とはどういうものか」を、明確に説明できる人は限られていることでしょう。

そこで、本記事では、新入社員でも理解できるように、就業規則の勘所から、就業規則の起こりがちな問題と対処方法をお伝えします。

この記事が新入社員の方はもとより、 人事部の方、 会社勤めの皆様にお役に立てば幸いです。

目次

就業規則とはそもそも何?(内容と効果)

就業規則とはそもそもなんでしょうか。なぜ必要なのでしょうか。

一言で言えば、「会社と労働者との間の労働条件や職場規律を定めたルール集」といったところでしょうか。

一般的に労働者は会社に対して弱い立場にあります。

そのため労働者を保護するための様々な制度があり、就業規則はその代表的なものです。
それでは、順を追って説明しましょう。

労働契約の特質(労働者と会社との力の差)

労働契約は、労働者が会社で働き、会社がそれに対して賃金を支払う、という約束です。

労働契約を結ぶことで、労働者は定められた時間に会社で働き(労務を提供し)、会社は賃金を支払います。

労働契約といっても契約です。
中には「『契約自由の原則』がある。労働者と会社の間で合意があればどんな内容でも構わない」と考える人もいるかと思いますが、この考えは大きな間違いです。

「契約自由の原則」は、契約当事者が同じような力関係の場合なら成立します。
「お互いの自由意思で納得すればどんな契約を結んでも構わないし、国家は干渉しない」、そのような考え方です。
労働者と会社の場合に「契約自由の原則」は当てはまるでしょうか。

労働者は、会社に労務を提供します。会社は、労働者から労務の提供を受け、会社の設備や商品などの資産を用いて業務を遂行します。そこで利益を上げ、その中から労働者に賃金を支払います。

他方で、労働者は会社のように利益を生む大規模な資産があるわけではなく、会社に賃金をもらわないと生活ができない弱者です。

労働者と会社とは対等の関係ではありません。会社の方が圧倒的に強いのです。

そのため、女工哀史の話のように、過酷な労働条件で労働者がこき使われることが多くありました。
これを放置していては、労働者が疲弊し、労働者の命も健康も損なわれます。
働く人が消耗しては産業の発展の妨げになります。
社会の秩序も乱れてしまいます。
結果、国家が成り立たなくなります。
このような問題を防ぐため、労働者を保護するための制度が整えられてきました。

労働者保護の仕組み

労働者保護の仕組みを見ていきましょう。
効力の強い順に①から④となります。

①労働基準法などの強行法規

労働者と使用者との間の労働契約が結ばれる際、そもそも、契約は公の秩序に反する内容であってはなりません。この公の秩序に反する法律を「強行法規」と言います。

労働関係についての法律は強行法規であることが多く、強行法規に反する内容や、強行法規の基準より低い契約は無効となります。
例えば、最低賃金法に反する低い給料について合意したとしても、その合意は無効であり、最低賃金法の基準の給料を支払う内容の契約に修正されます。

②労働協約

労働組合がある会社では労働組合と会社が話し合って働くルールを決めます。これを労働協約と言います。

平成30年度の厚生労働省の調査によると、日本では、労働組合に入っている労働者の割合(労働組合の組織率)は全体で17%程度です。それも雇用者が1000人以上の大企業で40%超ですが、100人から1000人までなら12%弱、100人未満なら1%未満です。本稿では、労働協約について細かな説明は省略します。

③就業規則

就業規則とは、簡単に言えば、「その会社の全社員に適用される労働契約の標準形を定めたもの」と考えれば理解しやすいでしょう。

労働基準法などの労働法は国全体に適用される最低限の基準です。就業規則は労働法の基準を満たした上で、会社の固有の事情を考慮して会社独自に作るものです。

就業規則は、法令にも労働協約にも反してはなりません。行政官庁は、法令や労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができます(労働基準法第92条)。
常時十人以上の労働者を雇っている会社なら、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法第89条)。

就業規則は会社が作成しますが、作成に当たって労働組合や労働者の代表の意見を聴く必要があります(労働基準法第90条)。

就業規則の内容については、法令や労働協約に違反しないだけでなく、内容が合理的であることが必要です。また労働者に周知されていなければなりません。周知というのは「労働者が内容を知ろうと思えば知ることができる」という意味です(詳細は後述します)。

④労働契約

個々の労働者と会社との間で締結します。

労働契約の最低限の条件は就業規則で定められています。労働契約の規定が就業規則の労働条件を下回る場合には、その部分は無効になり、就業規則の基準が適用されます。逆に、個々の労働者との労働契約で、就業規則を上回る内容の労働条件を決めた場合には、労働契約の内容が優先します。

就業規則の効力を知るための具体例

以上のことを、いくつかの事例で確認してみましょう。

【その1】労働基準法など労働法違反の就業規則は無効

労働基準法では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定められています。給与振込も特例として認められています(同法24条)。

仮に就業規則で「会社の状況により賃金の一部を会社の製品で現物支給できる。」とされていても、就業規則のこの部分は無効です。会社は賃金全額を通貨で(あるいは給与振り込みなどで)払わなければなりません。監督官庁はこのような就業規則の届出の際に、行政指導として違法な部分を直して再提出させることがあります。

【その2】労働法の制度は、就業規則の記載有無に関係なく適用される

育児休業は、原則として1歳に満たない子を養育する男女労働者が取得できるものです。また、有期雇用契約やパートタイムの労働者でも一定の条件で取得できます。 (育児・介護休業法第2条ほか)。

「当社では、育児休業の制度は就業規則で定めていないから認めない。」とか「当社では、育児休業は、女性従業員にだけ認めている。」「非正規労働者には育児休業は認めていない。」などといったことは許されません。

法律で定められた制度であり、就業規則に書かれているかどうかに関係なく、すべての会社、すべての労働者に適用されます。

【その3】就業規則違反の労働契約は無効

就業規則では賃金や賞与の決定や支払方法が定められています。

特定の労働者が「自分は安月給で構いません。ボーナスもいりませんのでぜひ雇ってください。」と言ってきたからといって、就業規則より低い水準の賃金にするといったことは許されません。

「その労働者も納得しているから」といった理屈は通りません。就業規則は労働契約の最低限の条件なのです。

【その4】就業規則より労働者に有利な労働契約は有効

就業規則で「業務の必要で転勤を命ずることがある。」と書かれていても、特定の労働者について労働契約で勤務地を「自宅から通える場所に限定する。」「○○支店に限定する。」などと定めることは有効です。(勤務地限定社員)

あるいは、就業規則の労働時間の定めにかかわらず、特定の労働者について労働契約で短時間の勤務の定めをすることも有効です。(短時間勤務正社員)

このような扱いを特定の労働者との労働契約で定めることは可能です。ある程度の人数の労働者にも適用したいなら、労働者との契約書のみならず就業規則で明確に定めるのが望ましいでしょう。

就業規則に記載される内容はこれだけある

では、就業規則には、実際にどんなことが記載されるのでしょうか。

必ず書かなければいけないこと(絶対的必要記載事項)と、会社のルールとして定めるならば書かなければいけない事項(相対的必要記載事項)があります。概要は次の通りです。

これらの内容が就業規則で定めてあれば、働く人にとって労働条件は明確になるでしょう。就業規則の内容のイメージをつかんでください。

絶対的必要記載事項

①労働時間関係
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合(シフト勤務)においては就業時転換に関する事項

②賃金関係
賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

③退職関係
退職に関する事項(解雇の事由を含みます。)

相対的必要記載事項

①退職手当関係
適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項。
社長が「あいつは気に入らないから退職金はなしだ。」などと勝手に決める事は許されません。

②臨時の賃金(ボーナス)・最低賃金額関係
臨時の賃金等(退職手当を除きます。)及び最低賃金額に関する事項。

③費用負担関係
労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項
例えば、テレワークで在宅勤務を認めるが、通信費は労働者に負担させるというならば、就業規則で明確に定める必要があります。

④安全衛生関係
安全及び衛生に関する事項

⑤職業訓練関係
職業訓練に関する事項

⑥災害補償・業務外の傷病扶助関係
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

⑦表彰・制裁関係
表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
制裁というのは懲戒処分などです。このような行為をすれば戒告、休職、懲戒免職などの処分を行う、というのなら、その内容を就業規則に明記しておく必要があります。

就業規則に何も書かずに、社長が突然、「お前はクビだ。」「勤務態度が良くないから1ヶ月間休職を命ずる。頭を冷やして来い。」などと、そのときの思いつきで勝手な処分をすることは許されません。

⑧その他
事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項

就業規則で問題が生じたときの対応

就業規則に関して様々な問題が生ずることがあります。よくある事例について検討してみましょう。
これまでに述べたことのまとめとして、次の原則を確認しておいてください。

就業規則の原則 4つのポイント

(その1)就業規則は労働法や労働協約に違反してはならない。

(その2)就業規則の内容は合理的でなければならない。

「合理的」というのは、そのような規定が企業経営・人事管理上必要であり、労働者の権利・利益を不相当に制限するものかどうかという視点から判断されます。例えば、裁判所は、業務上の必要に応じて労働者を配転させることができる規定が合理的と判断しています。

(その3)就業規則は個々の労働契約の最低基準を定めるものである。

就業規則より労働者に不利な労働契約はその限りで無効となり就業規則の定めが適用される。就業規則より労働者に有利な労働契約は有効である。

(その4)就業規則は労働者に周知されていなければならない。

周知というのは「労働者が内容を知ろうと思えば知ることができる」という意味です。
次のようなやり方で周知される必要があります。どのようなやり方でも構いません。

  1. 常時、各作業場の見やすい場所へ掲示するか、備え付けておく。
  2. 書面を労働者に交付する。
  3. 各事業場に労働者が就業規則の内容を確認できるパソコン等を設置しておく(社内共有ネットワークなどに保存し、労働者が手元のパソコンなどでいつでも見ることができる、といったことです)。

問題事例について

1 就業規則が会社にない

常時10人以上の労働者を雇っている会社なら就業規則の作成義務があり労働基準監督署に届け出る義務もあります。違反した場合には刑事罰が科されます(労働基準法第120条)。
ここで常時10人以上というのは正規や非正規社員を問いません。正社員6人でパート社員が5人いるなら、会社には就業規則を作成する義務があります。

2 就業規則を閲覧できない

例えば、就業規則が管理職の机の引き出しにしまい込まれており、管理職がいないと見ることができない、といったことが見受けられるようです。これは会社から労働者への就業規則周知義務違反です。周知義務というのは見ようと思えば見られる状態にしておくことです(労働基準法第106条)。違反した場合には刑事罰が科されます(労働基準法第120条)。周知されていない場合には就業規則自体が無効になりかねません。
そもそも就業規則は労働契約の内容の一部です。労働者は労働契約の当事者です。それでいながら契約の内容を知ることができないのは、およそ不適切なのです。

3 就業規則の内容に問題がある

前述の通り、就業規則の内容が法令や労働協約に違反していたり、合理性を欠いているならばその限りで就業規則は無効になります。

4 会社または労働者が就業規則を守らない

会社が就業規則を守らないのは労働基準法違反です。逆に従業員が就業規則を守らないなら就業規則の定めに従って懲戒等の処分の対象になります。

実際に問題が起きたときの解決方法

実際に上記のような問題が起きたときには、会社に改善を求めるのが筋です。それが難しいなら、公的な機関に相談することができます。公的な機関に相談したからといって会社が労働者に不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています。

(公的な機関の相談窓口の一例)

①都道府県労働局「総合労働相談コーナー」

職場のトラブルの相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っている機関です。
一番手軽に相談できる機関です。

参考:総合労働相談コーナーの所在地

②労働基準監督署

会社が労働法令等に違反しないように監督指導する機関です。労働者からの申告も受け付けてくれます。
場合によっては労働法に詳しい弁護士や社会保険労務士などに相談することも一つの選択肢でしょう。

参考:全国労働基準監督署の所在案内

あなたの会社で就業規則が適切に作成運用され、労働者の保護に役立つことをお祈りします。

この記事を書いた人
社会保険労務士

玉上 信明(たまがみ のぶあき)

社会保険労務士 
健康経営エキスパートアドバイザー
紙芝居型講師(登録商標第6056112号) 
日本紙芝居型講師協会(登録商標第6056113号)
日本公認不正検査士協会アソシエイト会員

弁護士
松本隆弁護士

弁護士  松本 隆

神奈川県 弁護士会所属
横浜二幸法律事務所
所在地 神奈川県横浜市中区山下町70土居ビル4階
TEL 045-651-5115

労働紛争・離婚問題を中心に、相続・交通事故などの家事事件から少年の事件を含む刑事事件まで幅広く事件を扱う

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